2013年3月31日日曜日

Canary Wharf 就職一周年&ドーナツ


早いもので、夢の Canary Wharf 就職を果たしてから一年以上が経過してしまいました。

念願叶って毎日ウキウキ出社していた日々が懐かしいです。
一年経った今も、まあロンドンで生活している上で、これ以上理想的な仕事環境はないかな、という認識は変わっていません。
ただ、毎日同じ事を繰り返していると、人間心も身体も慣れきってしまうもの。
刺激的要素はすっかり薄れました。

思い返せば昨年3月に就職して以来、興奮期を越えて、現在まで燃え尽き症候群の症状が続いているように思えます。
あまりにも長い間、Canary Wharf で就職することを目標に、そこに繋がりそうなことはいろいろ手を出してあがいてきましたが、いざ達成してさあ次、と考えると、はて自分の人生で、他にたいして何も残っていないということに今更気がつきました。
この目標に直接関連がなかった(正確には、ない、と思って取捨選択で捨に追いやられた)ものたちのことです。
例えば、日本の女子たちが走りがちな趣味やおけいこごとだったり、そういったものを通してできる人脈、特別な資格やスキルの勉強など。
今思えば、興味を持つことへの興味がまったく湧き起こらなかったものたちです。
同じような理由で、大目標が片付いた後、次の目標も見えてきません。
かといって、現状で満足していない今、何か次ぎのアクションを起こさなくては打破できないし。

はて。

この一年しばしば静かに悩みました。
活路を見出せずにいることに悩みつつ、一方で、健康でそこそこ資金もあるのにどこへどう動いて良いかでうだうだと贅沢に悩んでいる自分が情けなく罪深い。

が、ようやく何となく突破口が見えてきた気がするので、まだ有言はしませんが実行に向け静かに動こうと思います。


さて、若干メンタルなつぶやきを終えたところで。
ちょうど就職一周年に差し掛かったとある金曜日、朝の通勤電車で突然思い立ったらしいボスが、ドーナツとコーヒーを買って皆に振る舞ってくれました。


しかし、その場にいたのは一人は葉っぱしか食べない摂食障害の J(これについては以前の記事でも述べた通り、何とかしてあげたいのだが、結局のところ本人の問題&症状が表に出ない&現場を押さえられないので難しい)、一人は万年ダイエット中、残る3人は喫煙でおなかいっぱいのボス本人と私とハンガリー人。
必然的に、私とハンガリー人が4つずつおいしくいただき、残りは通りすがりのラッキーな別のチームの輩が持って行きました。
24時間365日甘いもの絶賛受付中の私は、ランチ代も浮いてそれは良い一日となりました。

クリスピークリームドーナツといえば、以前ちょっと派遣で行っていた新宿の某社の前に支店がありましたが、四六時中人々が行列している印象しかありません。
日本にいた時分にも何度かいただきましたが、ダンキンドーナツを食べて育った私には、行列に並ぶ人々を横目に、いまいちその価値が理解できませんでした。
ロンドンにはそれはもうそこら中に支店があり、行列を目にした事は皆無。
浸透度だけは相当で、スーパーにもクリスピークリーム用のラックが設けられている程のユビキタスっぷり。
かつて住んでいたシドニーの会社の近くにもお店がありましたが、行列どころかいつもスカスカの印象です。
何故日本ではあんなにまで騒がれちゃったんでしょうね?

本題に戻ります。
決して食べ物に釣られているわけではないですが、日々やれアメリカ人と仕事したくない、仕事がつまらん(自分で楽なのを選んだんだが)などとぼやきつつも、仕事中にジャニーズ聴き放題(イヤホンです、もちろん)、ビジネス相手を練習台にイタリア語の練習もできて、たまにこうしてドーナツが出て来る職場、やっぱり恵まれているなあと思う。
収入や待遇、上を見ればきりがないんだろうけど、こういう日々の小さな事に幸せを感じられる心は忘れたくない。

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El Celler de Can Roca 訪問記


前回の記事で私のマスターシェフへの情熱をタラタラと書きましたが、
熱心に視聴を続けた結果、この度、番組内で取り上げられた、
2011年度サンペレグリノ世界レストランランキング第2位 、
ミシュラン3つ星 El Celler de Can Roca へランチに赴くこととなりました。 


ハーフマラソンのために滞在したバルセロナから電車で約一時間強、
ジローナという街にそのレストランはあります。
ランチの予約は午後1時でしたが、遅刻しちゃいかんと思い、
11時半にはジローナ駅着。
駅からお店まではバスやタクシーで行くのが一般的なようでしたが、
お腹を空かせる目的で、我々は歩いて向かいました。
住宅地を抜け、交通量の多い大通り沿いに歩いて20分程度。
お店まで歩いている段階で既に緊張している小市民。

到着したのは12時15分頃で、当然早すぎたわけですが、無問題。
お店の敷地内に脚を踏み入れ、早速中庭でロカブラザーズ次男(ソムリエ)と三男(ペイストリーシェフ)を発見!
常連客か関係者と思われる人たちと歓談していました。
テレビと同じ姿!テンション上がります。
ちなみに、姿の見えなかった長男がお料理の総監督。


中庭のベンチに腰掛けて勝手に待たせてもらっていると、
歓談を終えたソムリエ次男が声を掛けてくれました。
英語は上手なはずながら、スペイン語。
今回のスペイン滞在でスペイン語を話した数少ない機会が、このソムリエとの会話!
ああ、スペイン語勉強していて良かった〜!と安直に歓喜。

待つ間にカヴァを勧められたものの、空きっ腹にカヴァ入れてこの後の食事が台無しになることを懸念し、お水をいただきました。

お天気にも恵まれ、手入れの行き届いた中庭の緑とガラス越しの店内が、
何とも言えない優雅な雰囲気を醸し出し、一層心高まります。

時間になると給仕係がやって来て、中に通してもらいました。
恐らく(間違いなく)全席予約済みで、各テーブルがそれぞれの客を待ち受けるべく、しっかりとスタンバイされています。

着席すると、早速カヴァのサービス。
ランチのコースは135ユーロと165ユーロの2種。
165ユーロはメニューも長く、ものすごい量に思えましたが、
せっかく来たからということで、お高い方を選びました。
ちなみに、テーブル全員が同じコースを選ばなくてはなりません。

我々は、予約時からナッツのアレルギーを伝えてあったため、
一部のお料理は差し替えを手配してくれていいたようです。


電話帳のような分厚いワインリストが数冊用意されていましたが、
我々ワインに明るくない素人には賢明な選択は不能と思われます。
お店の人の勧めもあって、コースの料理それぞれに合うワインが出てくる、
マッチング、いわゆるワインのコースをいただくことにしました。
ただ、皿数が10以上あるので、「全部は飲みきれないよ...」と懸念を口にすると、
マッチングワイン1人分を2人でシェアして飲んでもOKと言われました。
これは嬉しい。ということで、一人分85ユーロをシェアする事に。
ただし、それぞれのワインを2つのグラスに分けて注いではくれないので、
シェアの場合はいわゆるまわし飲みになります。
我々は一人がまず半分くらい飲み、二人目が残りを飲むという方式にしました。


こちらはコース突入前のカヴァ。
ああ、写真を見て記憶が甦るだけで心躍ります。
ここから先は、ウダウダと書くよりも、写真でお楽しみください。


一杯目のカヴァと共に間もなく運ばれてきたのは、「世界」と名のついたこちら。
一口大の宝石のようなかわいらしいそれぞれが、世界5各国のスパイスを用いて創出されており、「食べながらどこの国か当ててみて」との課題付きでサーヴされました。
ちなみに、奥のオレンジのが日本。味噌風味でした。


続いてやってきたのは...


盆栽。
にぶら下がった、キャラメライズドオリーブ。


キャラメルコートされ甘いのですが、巻いてあるアンチョビからにじみ出る塩気とのコントラストが絶妙です。
いや、この演出はカンロカらしい。
この後の皿のプレゼンテーションも、随所に和のテイストが窺えます。

続いて以下の3品が同時に登場。

グレープフルーツとごまの風味のジュースが詰まったボンボン。
見た目チョコレートです。噛む瞬間、わくわくします。

アーティチョークオムレツ。
大きな白い皿に謙虚しかし確かな存在感を示すこの一口。
まろやか、でもアーティチョークの味しっかり。

えびせん。無類のえびせん好きの私には嬉しい。
でもこの網状のベースは柔らかく繊細で、優しく持たないと崩れてしまいます。



続いてやってきたのは、トリュフ兄弟。


岩の中から出てきたのは...


ブラックチョコレートトリュフ。
演出もにくい。

トリュフブリオシュ。
見た目の通り、要はトリュフ饅頭。もちもち皮の中に、濃厚トリュフクリーム。
うむむ、期待通り、カンロカやるな... この辺でもう既にそう思わせてくれます。


ここまでが、カヴァをお供にサーヴされたアミューズブーシュと認識しております。
既にお腹は十分満足しているとも思えるのですが...。

いよいよ、マッチングワイン付きの本ラウンドに突入です。

まずはパン。かごで何種類か持ってきてくれる中から選びました。
Traditional と称されるシンプルなのと、トマトのブリオシュにしました。

以下、長くなるのでマッチングワインは割愛し、お料理のみを紹介します。
それぞれのお料理と共にどんなワインを飲んだかどうしても知りたい!
という方は、当方までお問い合わせください。

ベジタブルブロス、グリーンピース、オレンジのはマンゴー、赤いのはウニ、洋梨のダイスも入っています。


味付けは素朴ながら、プレゼンは春色が鮮やか。
ピーのしっかりとした歯ごたえが生きています。
巷のグリーンピースがピーの味と思っている庶民には衝撃です。

オリーブづくし。
オリーブのガスパチョ、ムース、フリッター、オリーブアイスクリーム、オリーブオイル付きトーストなどが一皿にまとまっています。

これでもか!という程、オリーブてんこ盛りの一皿ですが、
パーツによってしっかり風味が異なるので、さすが飽きさせません。


ホワイトアスパラガスのヴィエネッタ。
まさにあのアイスのヴィエネッタ。チョコレートの代わりはトリュフ。

そこはかとない甘みはしっかりホワイトアスパラ。
この発想とプレゼンテーションは、まさにカンロカの真髄。
こんなに「美しい」ものを食べたことがない。
この一品で完全にKOされました。

えび一尾。みそのジュースにさざ波を模した泡、プランクトンのケーキ。


これってもう完全に懐石の世界では。
日本人はその奥ゆかしさを感受する一皿だが、外国人にはまったく違う印象の料理に映るのだろうか?

続いて、オイスター。ジビエのオランデーゼソース。
お皿もこのために用意されたのか、本当に牡蠣を食べるよう。


ソースというよりクリームは濃厚で、味わい深いです。
上にかかっているのはまたしてもトリュフ。

マッチングワインももったりと深い、特に合う逸品でした。




シーブリームにエンダイブとシトラス。




黒いお皿に魚の白、鮮やかな黄色と赤のシトラスソース。
これまたプレゼンテーションが光ります。
前のジビエのまろやかさと対照的な、さわやかなキック。


次。イベリコ豚!
リースリングベースの柑橘系ソースです。


まるで北京ダックのようなポーション。
ゼリー状のマンゴー、メロン、赤かぶが、豚の脂身を中和する役割を果たしています。
これは率直に美味しい。食べながら、笑いが止まりませんでした。
最後にお皿の上にある赤い花びらのようなものでお口直しを、
とお店の方からのアドヴァイスがありました。確かにさっぱり。




赤ボラのポーチ。





このお料理は2011年のマスターシェフに出てきましたが、
当時は黄色(サフラン)のみだったニョッキが3色になっていたりと、進化を遂げているようです。
お魚だけど赤ワイン。ソースによく合います。


続いて、霧に覆われるようにやってきたのは...


トリュフのスフレ。


もはや説明の必要もないでしょうが...
トリュフのスフレです。中は濃厚ムース上のトリュフ。
そしてそれを取り囲むのが、歯ごたえたっぷりの肉厚トリュフのスライス。
トリュフって、こんなに大量摂取して良いものなんでしょうか...。


もはや贅沢に身体がついてゆけなくなりつつあるここで一端化粧室休憩。
ワインもだいぶいただいているので、自分の足取りを確認するように、
周囲のテーブルを見渡しながら、ゆっくり歩いてみる。
お一人様のお客さんもいれば、若い男性ばかりの4人組も。
さらに日本語の関西弁が聞こえるテーブルを素通り。

化粧室は一部屋のみ、レストランの雰囲気にしては、質素で簡易的なものでした。
シンプルで良いっちゃ良い。そして、全館通してバリアフリーです。


席に戻って間もなく出てきたのがこちらの逸品(一品)。
ラムのグリルと、sweatbreads (シビレ:調べると膵臓やら胸腺やらに当たるらしい)、ナス。


この、ナスの上に乗っている赤いものが、sweetbreads なんだそうです。
初めて食べました。モチっとした食感で、後を引く美味しさです。
もう一個欲しい!


そして、いよいよメインのメインイベント突入。
出てきたのはこちら!
 
トリュフ。またトリュフです。おーまいが。
トリュフのリゾット。

見よこの色つや。
実はこれ、ナッツアレルギー対応の特別メニュー。
通常メニューでは鳩のお料理が来るはずだったようですが、むしろハッピー↑です。
とにもかくにも、トリュフ。米に絡まるトリュフ、ジュース、
そして散りばめられたスライストリュフ。
もう一体どうして良いものか。
この数時間で、一生分に値するトリュフを摂取したことうけあい。


メインのお料理コースはこれにて終了。
いよいよお楽しみのペイストリーシェフ三男によるデザートに突入です。


一品目はアイスクリーム。バルサミコ酢が効いており、中にはライチの果肉。
お口直しにふさわしいさわやかさ。



デザート2品目は、リンゴ。

ではなく、これは飴細工です。
ふわふわの綿菓子に乗って。
見た目にも美しくおいしい。このプレゼンも、カンロカを象徴するスタイルです。

中から出てくるリンゴクリーム。
外のキャラメルリンゴがかなり甘いので、中のクリームはあっさり。


少し時間が空いて、運ばれてきたオーラスのデザート。
きたーー!!


私の大大大好物のドルセデレチェ(ミルクを煮詰めた甘いキャラメル)にヤギミルクのクリームたっぷり、甘さとのコントラストにグァヴァが添えられています。

波打つお皿は、表面をスプーンを滑らすと、カウベルの音を奏でます。
視覚、聴覚、味覚に訴えるトリプルパンチ。

これは、2011年のマスターシェフで出て来た一皿で、是非食べたかったもの。
135ユーロのコースにあるのをメニューで見ましたが、
165ユーロのコースには入っていませんでした。
しかし、165ユーロのコースの最後のデザートがナッツ入りだったようで、
幸運にも差し替えられてこれが登場するという嬉しい大団円!

あ〜、幸せ!!

お料理はもちろん素晴らしかったのですが、それと同じくらい if not more、感動させられたのがワイン。
ソムリエ次男セレクトのマッチングワインは大正解でした。
何がすごいって、ワインが本当にシームレスにお料理とマッチする。
過去にもマッチングワインと共にお料理をいただいたことはありましたが、
「うん、まあ合うっちゃ合うね」という程度の感想しか持てないでいたワイン素人。
ここのは、ワインに詳しくない我々も確実に「ワインと料理が融合・一体化している」と認識できます。
食事の終盤にソムリエ次男がテーブルを訪ねてきてくれたので、
ワインに心底感動しきった旨をアピールしました。
繰り返しになりますが、それぞれのお料理と共にどんなワインを飲んだのかどうしても知りたい!という方は、当方までお問い合わせください。


デザートの後、とどめにプティフールのワゴンがやって来ました。
既に舌もお腹も脳も大満足しきっていましたが、せっかくなので何品か選択。
コーヒーもいただきました。



会計時、今日食べた全てのお料理とワインのリストをいただきました。
良いお土産になりました。今もそれを見ながら記事書いています。
ちなみに、プティフールも食べきれず、お土産にしました。


1時前から食べ始めて、お店を出たのは夕方5時を刻もうという頃。
まだまだ陽が高い道を、また歩いて駅まで戻りました。



ハーフマラソン完走の素晴らしい報酬になりました。
至福のひとときを終えた帰り道は、20代の頃、とにかく当てもなくお金を貯めようと、サラリーマンとバイトを掛け持ちして休みなく働き、電車代を惜しんで歩いたり、少しでも安く買うためにスーパーを何軒もはしごしたり(今もやるけど)していた自分を思い返し、今日一食にこれだけの投資ができたことに「自分も随分良いお金の遣い方ができるようになったな」としみじみ考え、感慨深いものがありました。

またカンロカに食べに行きたい。
その一方、この素晴らしい思い出を最後にやめておいた方が良いのか?
正直迷うところです。
もし再訪して、「前の方が良かった」と失望したりすることは避けたいので...。
こんなお店に限って、そんなことはないと信じたいけどね。

しかし、バルセロナの記憶は、すっかりこのカンロカ experience に持って行かれ、
振り返れば、マラソン?ああ、走ったねそういえば...。




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2013年3月11日月曜日

MasterChef The Professional


私のイギリスでの生活を語る上で不可欠なもの。それがBBC2のMasterChef UK(以下「マスターシェフ」)であります。


自宅にテレビがないので、イギリスに来てからテレビはほぼまったく視聴していないのですが(ネットで日本のロンドンハーツなどを見ている)、一昨年旅先の宿のテレビで初めてこの番組と出会いました。

日本で言うと、テレビ東京で昔やっていた「テレビチャンピオン」の、すご腕料理人決定戦みたいなテーマのイメージでしょうか。(古すぎ?)

マスターシェフにはアマチュア版とプロ版があるのですが、私がのめりこんだのはプロ版の MasterChef The Professional です。

アマチュア版も、素人とは思えないような敏腕料理人の調理技術やセンスの高さに驚かされ、十分興味をそそられます。

プロ版がさらおもしろいのは、勝ち残る参加者の技術やプレゼンテーションのレベルの高さはもちろん、一方で、「この人本当にプロ?」というような残念な作品を仕上げてしまう挑戦者もいたりするわけで(笑)。プロと名乗っていても千差万別なんだなと思い知らされます。

また、何十年もプロでやっている経験豊富なシェフがうっかりミスで自滅する一方、料理学校を出て間もない20代前半の若いシェフが圧倒的な逸品を作り上げたりと、料理は経験や技術だけではなく、センスや想像力、さらにシェフの体調やメンタル、いろいろな要素がものを言う世界なんだな、と素人ながら思い知らされる場面も多々あります。そこがまた見ていて興味深いところ。

マスターシェフはアメリカや他の国にも存在するようで、ちら見をしたことがありますが、個人的にはイギリス版がいろいろな意味で洗練されていて、見ていて気持ちが良いと思います。

例えば、一度見たアメリカ版では、一部の審査員が威圧的、挑戦者の言葉遣いが汚い、挑戦者同士の確執や批判を強調する演出が目立ったりと、料理以外の部分で毒々しい場面が際立ち苦手でした。また、スタジオのセットが暗く、30−40人の挑戦者がひしめき合っていて、窮屈な印象(あくまで個人的な感想ですが)。

イギリスのプロ版マスターシェフは、白を基調とした明るいスタジオで、一度に登場する挑戦者は最大10人。ゴミゴミ感もなく、清潔な印象です。

審査員はロンドンのミシュラン2つ星 Le Gavroche のミシェル・ルーJr、同スーシェフのモニカ・ガレッティ、そして本業は何なのかはっきりしないが、食材や料理関係のTVプレゼンターである(極度の甘党)グレッグ・ウォレス。

この3人3様のキャラが立っていて、また番組が進むにつれて彼らの挑戦者を見る視線が変化していくのを追うのもおもしろい。元来料理番組大好きなのに加え、この番組の演出が絶妙で、まんまとハマりました。


このマスターシェフプロ版の放送シーズンは、年に一度、毎年秋から年末にかけて到来。
春から秋にかけて開催&収録した大会の様子が、週4日毎日30分-1時間、6週間ぶっ通しで放送されます。

先述の通り、自宅にテレビはないものの、インターネットという文化的なものが普及する便利なご時世。
昨年の放送期間中は、夜の外出はシャットアウト、放送5分前には PC の前に着席し、準備万端で視聴に挑みました。さらにCMが入らないため、事前にトイレも済ませ、文字通り1時間釘づけになる大マジ視聴者(笑)。

第一週目。まずは予選を勝ち抜いた40人が、当初4組10人ずつに分かれて第一ラウンドが行われます。
初日の最初のテストは、インベンションテストと呼ばれる、その日に用意された7つの食材を用いて、オリジナル料理を作るというもの。

7つの食材は、だいたい肉か魚、野菜果物が数品、ブリオシュなどのパン類、クリームなどのラインナップが主流ですが、皆が肉メインでステーキやらラビオリやらを作るのに、肉は完全無視してデザートまっしぐらの挑戦者がいたりと、食材の可能性の幅広さと作り手の発想の多様性を感じさせられます。

続いて2日目はスキルテスト。これは、例えばカニをさばいて調理しソースを添える、スフレを作る、など、一定の技術を要する作業をジャッジの目の前でこなし、15分間で完成形を作り上げるというもの。
ある時は、イガイガのままのウニが出てきてフリースタイルでサーブするという課題がありました。日本人にはおなじみのウニも、外人には珍しいどころか、挑戦者のほとんどが所見で手探りの作業でした。

ここまでの審査員は、めったに笑顔を見せず鋭い視線で挑戦者の一挙一動を追うモニカと、スイーツにはめっぽう甘く、茶々入れとにぎやかしが役割と思われるグレッグ。いろいろなことをやらかしてしまう挑戦者の動きを見守る2人の顔芸が見ものでもあります。この冒頭のインベンション&スキルテストで各組2人が脱落。

3日目。ここからいよいよ、この番組のメインジャッジ、モニカの上司でLe Gavrocheのミシェル・ルーJr.氏が登場。
参加者にとっては、ここまで勝ち抜いて直接ミシェルの審判を受けるというのがひとつの目標のようです。

ミシェルが登場して初のテストはクラシックテスト。
まずは、ミシェルが指定したフレンチのクラシックディッシュを、レシピどおりに作るテストで、レシピの理解力、確実に遂行する技術、プレゼンテーションを作り上げる想像力が試されます。
初めに、ミシェル自身が別の厨房で調理し、完璧に完成させる様子が放送されます(挑戦者はそれを見ていない)。
その後、スタジオで挑戦者がそれぞれ作り、ミシェルのジャッジを受けるのですが、写真のないレシピをそれぞれが解釈して作るので、完成品はまあ多種多様。

続いて挑戦者は、自分自身が選んだクラシックディッシュを自分のレシピで調理。ミシェルと、さらにグレッグが食べてコメントします。

この辺から気になってくるのが、この2人の審査における無視できないバイアスでしょうか。
ミシェルはフレンチ専門なので、当然のことながら、正当派フレンチをきっちり仕上げてきた挑戦者の評価が高い。同じクラシックでも、英国料理や、まして和食の懐石なんかやっても、いくら完成度が高くてもフレンチほどの評価は受けられないでしょう。

そしてグレッグ。この男はスイーツに目がない。たとえメインディッシュがいまいちでも、パンチの効いたデザートを一発持ってくれば評価が一気に上がり、逆もしかり。
まあ、挑戦者側もその辺りは把握していて、ジャッジの嗜好も当然戦略に組み込んで挑むのでしょうが。
この2つのクラシックテストで、各組8人→4人まで絞られます。


4日目。クラシックテストを勝ち抜いた各組4名が次に挑むのは、レストラン評論家のために料理するテストです。

イギリスの著名なレストラン評論家3名が、挑戦者の作る2皿(メインとデザート、または前菜とメイン)を食し、大体の場合ぼろくそに批評します。
ただし、挑戦者の目前で厳しくコメントするというわけではなく、あくまで3人がテーブル上でコメントするので、挑戦者が酷評されて取り乱すなんてことはありません。
しかし、このテストは挑戦者にとっては精神的にかなり厳しいようで、皆自分のサービスが終わるとぐったり、精根尽き果てた状態のようです。

準備中も緊張でナーバスになったりテンパリまくる挑戦者を、ミシェルとグレッグが励ますのですが、このへんまでくるとこのジャッジ2人もすっかり挑戦者の身内。情が移っているのが伝わってきます(笑)。

この評論家テストで、各組4名は準々決勝に進出する2名に絞られます。

ここまでの過程を、各グループ4夜連続、一週間で放送します。4組すべて放送し、準々決勝進出者8名が出揃い顔を合わせるのが5週目。
1週目のグループからの進出者については、5週目にはすっかり懐かしい顔になってしまっていますが、4夜連続で見届けた記憶があるので、なんとなく「おお、また会えたね!」的な心情を視聴者に抱かせます(笑)。
また、5週目頃には視聴者もそれぞれ自分のお気に入り挑戦者が固まってくるようで、回を重ねる毎に Facebook や Twitter での応援合戦も盛り上がりを増してきます。

5週目の初日の準々決勝、フリースタイルクッキングで、まず2人が脱落。

残った6人は2人ずつ3組に分かれ、それぞれのペアがイギリス国内の名門レストランに修行に入ります。これが準決勝。
ここでミシュラン星付きレストランの厳しさを知るわけです。
スタジオでは調子よく料理していた挑戦者も、いざ厨房に入ったりするとダメ出し連発だったり、逆にここで光る人もいる。
営業時間のサービスに参加した後は、お店の代表的メニューをレシピに沿って再現し、シェフの評価を受けます。

その後、各ペアスタジオで一騎打ちの審査。レストラン研修の成果が試されるというところでしょうか。
ミシェルとグレッグが食べて評価・コメントし、結果各ペア一人ずつが勝ち残り、決勝進出3名が決まったところで5週目終了。

ここでもう一つ、毎度疑問に思うのは、準決勝のペア組はどうやって決まっているのか?ということ。
ここまでの経過を見ていて、明らかに抜きん出て実力がありそうな2人が同じ組に入れられたり(つまりどちらかが脱落する)、一方でそうでもないような2人が組んだ故に一人が勝ち残ったりと、どこかフェアじゃなくね?とすっきりしない後味が残ることもないとは言えません。
ペアは純粋にクジ引きか何かで決めていて、運も実力のうち、ということなのか。
はたまた、番組的に決勝に残したいメンツが決まっていて、出来レースなのか...。
また、前半のレストラン修行の評価がいったいいかほどまで選考に影響しているのか不明。
結局は後半のスタジオでの調理一発で決まっているんじゃないのか?とも思える。

その辺探り出したら楽しく視聴できなくなりそうなので、あえてしません。


最終週の6週目。1日目、決勝進出の3名は、まずフリースタイルで2コース作り、例によってミシェルとグレッグが評価。
ここまでくると、料理は予選ラウンドとは比にならないハイレベル。

数週前にはさほどパッとしなくて、上記のように「なんでこの人残っちゃう?」と思わせてしまうような挑戦者も、やはりここまで勝ち残るには素人にはわからない何かを持ち合わせているのか。さすがと思わせる逸品を出してくる。確かに、番組を通して挑戦者のスキルや自信が高まっているのが見て取れます。

最終週は途中で誰も脱落せず、2日目は、3人揃ってまたミシュランレストランの厨房に入ります。
前の週にペアで行くレストランとはまた格が違う、今回はいわゆる最高峰の3つ星クラスのレストランです。

まずは厨房でその店独特の技術やこだわりの品を教わり、学んだ事を生かして自分なりの2皿を用意して、その店のシェフの評価を受けます。
さらにお店の営業時間に厨房に入り2皿の準備を担当し、超一流の技術やサービスを体験するという運びです。

素人ながら、こういう一流の現場に入り、サービスに参加するって、料理人としてはすごい経験なんじゃないかと思います。
例えるなら、冠婚葬祭でピアノの演奏をしている地方のピアニストが、ウィーンフィルと共演みたいな感じでしょうか...。音楽関係疎いのでとんちんかんな例えでないといいですが。

そして3日目はシェフズ・テーブル。
ファイナリストは、ヨーロッパ中から集結した、一流料理人30人(うちほとんどがミシュラン2−3星付レストランから)のために料理します。
前菜、メイン、デザートを、それぞれ1人が担当。6時間かけて準備します。

厨房で準備する挑戦者の様子を、ミシェルが見て周るのですが、その様子はもう家族同然。
うまくいけば一緒に喜ぶし、雲行きが怪しい時は一緒に手に汗握っています。

集まった一流シェフたちは、審査員というよりオーディエンス、お客としてサービスを楽しんでいるようです。
しかし、これ挑戦者たちにとっては、Massive Day だろうな...。うまくやれば仕事のオファーがあるかもしれない一方、失敗したら業界で生きて行けなくなりかねない。



そして、最終日スタジオでの3コースサービスが、決勝戦の最後の最後。優勝者が決まります。


さて、長々書いてきましたが、ここまでお付き合いいただいた後に申し上げるのもなんですが、この番組の醍醐味はぜひ映像でお楽しみください(笑)。YouTubeで Masterchef professional UK 2011 とでも入れていただき、ヒットGo。




2011年の決勝では、ファイナリストはスペインのミシュラン3つ星レストラン、El Celler de Can Roca へ行きました。
その映像を何度も見返し、我々思わず予約を入れてしまいました。

次回はその訪問の様子をお伝えします。


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準備中。


普段は滅多に出かけない、サウスケンジントンを散歩していたら、
駅前に近日オープンと書かれた寿司ショップが。


これよく見ると


お寿司で描かれている。お寿司アート。

近くで見ると...


なんかビビッときたので激写してしまった。

以上。
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