2013年3月11日月曜日

MasterChef The Professional


私のイギリスでの生活を語る上で不可欠なもの。それがBBC2のMasterChef UK(以下「マスターシェフ」)であります。


自宅にテレビがないので、イギリスに来てからテレビはほぼまったく視聴していないのですが(ネットで日本のロンドンハーツなどを見ている)、一昨年旅先の宿のテレビで初めてこの番組と出会いました。

日本で言うと、テレビ東京で昔やっていた「テレビチャンピオン」の、すご腕料理人決定戦みたいなテーマのイメージでしょうか。(古すぎ?)

マスターシェフにはアマチュア版とプロ版があるのですが、私がのめりこんだのはプロ版の MasterChef The Professional です。

アマチュア版も、素人とは思えないような敏腕料理人の調理技術やセンスの高さに驚かされ、十分興味をそそられます。

プロ版がさらおもしろいのは、勝ち残る参加者の技術やプレゼンテーションのレベルの高さはもちろん、一方で、「この人本当にプロ?」というような残念な作品を仕上げてしまう挑戦者もいたりするわけで(笑)。プロと名乗っていても千差万別なんだなと思い知らされます。

また、何十年もプロでやっている経験豊富なシェフがうっかりミスで自滅する一方、料理学校を出て間もない20代前半の若いシェフが圧倒的な逸品を作り上げたりと、料理は経験や技術だけではなく、センスや想像力、さらにシェフの体調やメンタル、いろいろな要素がものを言う世界なんだな、と素人ながら思い知らされる場面も多々あります。そこがまた見ていて興味深いところ。

マスターシェフはアメリカや他の国にも存在するようで、ちら見をしたことがありますが、個人的にはイギリス版がいろいろな意味で洗練されていて、見ていて気持ちが良いと思います。

例えば、一度見たアメリカ版では、一部の審査員が威圧的、挑戦者の言葉遣いが汚い、挑戦者同士の確執や批判を強調する演出が目立ったりと、料理以外の部分で毒々しい場面が際立ち苦手でした。また、スタジオのセットが暗く、30−40人の挑戦者がひしめき合っていて、窮屈な印象(あくまで個人的な感想ですが)。

イギリスのプロ版マスターシェフは、白を基調とした明るいスタジオで、一度に登場する挑戦者は最大10人。ゴミゴミ感もなく、清潔な印象です。

審査員はロンドンのミシュラン2つ星 Le Gavroche のミシェル・ルーJr、同スーシェフのモニカ・ガレッティ、そして本業は何なのかはっきりしないが、食材や料理関係のTVプレゼンターである(極度の甘党)グレッグ・ウォレス。

この3人3様のキャラが立っていて、また番組が進むにつれて彼らの挑戦者を見る視線が変化していくのを追うのもおもしろい。元来料理番組大好きなのに加え、この番組の演出が絶妙で、まんまとハマりました。


このマスターシェフプロ版の放送シーズンは、年に一度、毎年秋から年末にかけて到来。
春から秋にかけて開催&収録した大会の様子が、週4日毎日30分-1時間、6週間ぶっ通しで放送されます。

先述の通り、自宅にテレビはないものの、インターネットという文化的なものが普及する便利なご時世。
昨年の放送期間中は、夜の外出はシャットアウト、放送5分前には PC の前に着席し、準備万端で視聴に挑みました。さらにCMが入らないため、事前にトイレも済ませ、文字通り1時間釘づけになる大マジ視聴者(笑)。

第一週目。まずは予選を勝ち抜いた40人が、当初4組10人ずつに分かれて第一ラウンドが行われます。
初日の最初のテストは、インベンションテストと呼ばれる、その日に用意された7つの食材を用いて、オリジナル料理を作るというもの。

7つの食材は、だいたい肉か魚、野菜果物が数品、ブリオシュなどのパン類、クリームなどのラインナップが主流ですが、皆が肉メインでステーキやらラビオリやらを作るのに、肉は完全無視してデザートまっしぐらの挑戦者がいたりと、食材の可能性の幅広さと作り手の発想の多様性を感じさせられます。

続いて2日目はスキルテスト。これは、例えばカニをさばいて調理しソースを添える、スフレを作る、など、一定の技術を要する作業をジャッジの目の前でこなし、15分間で完成形を作り上げるというもの。
ある時は、イガイガのままのウニが出てきてフリースタイルでサーブするという課題がありました。日本人にはおなじみのウニも、外人には珍しいどころか、挑戦者のほとんどが所見で手探りの作業でした。

ここまでの審査員は、めったに笑顔を見せず鋭い視線で挑戦者の一挙一動を追うモニカと、スイーツにはめっぽう甘く、茶々入れとにぎやかしが役割と思われるグレッグ。いろいろなことをやらかしてしまう挑戦者の動きを見守る2人の顔芸が見ものでもあります。この冒頭のインベンション&スキルテストで各組2人が脱落。

3日目。ここからいよいよ、この番組のメインジャッジ、モニカの上司でLe Gavrocheのミシェル・ルーJr.氏が登場。
参加者にとっては、ここまで勝ち抜いて直接ミシェルの審判を受けるというのがひとつの目標のようです。

ミシェルが登場して初のテストはクラシックテスト。
まずは、ミシェルが指定したフレンチのクラシックディッシュを、レシピどおりに作るテストで、レシピの理解力、確実に遂行する技術、プレゼンテーションを作り上げる想像力が試されます。
初めに、ミシェル自身が別の厨房で調理し、完璧に完成させる様子が放送されます(挑戦者はそれを見ていない)。
その後、スタジオで挑戦者がそれぞれ作り、ミシェルのジャッジを受けるのですが、写真のないレシピをそれぞれが解釈して作るので、完成品はまあ多種多様。

続いて挑戦者は、自分自身が選んだクラシックディッシュを自分のレシピで調理。ミシェルと、さらにグレッグが食べてコメントします。

この辺から気になってくるのが、この2人の審査における無視できないバイアスでしょうか。
ミシェルはフレンチ専門なので、当然のことながら、正当派フレンチをきっちり仕上げてきた挑戦者の評価が高い。同じクラシックでも、英国料理や、まして和食の懐石なんかやっても、いくら完成度が高くてもフレンチほどの評価は受けられないでしょう。

そしてグレッグ。この男はスイーツに目がない。たとえメインディッシュがいまいちでも、パンチの効いたデザートを一発持ってくれば評価が一気に上がり、逆もしかり。
まあ、挑戦者側もその辺りは把握していて、ジャッジの嗜好も当然戦略に組み込んで挑むのでしょうが。
この2つのクラシックテストで、各組8人→4人まで絞られます。


4日目。クラシックテストを勝ち抜いた各組4名が次に挑むのは、レストラン評論家のために料理するテストです。

イギリスの著名なレストラン評論家3名が、挑戦者の作る2皿(メインとデザート、または前菜とメイン)を食し、大体の場合ぼろくそに批評します。
ただし、挑戦者の目前で厳しくコメントするというわけではなく、あくまで3人がテーブル上でコメントするので、挑戦者が酷評されて取り乱すなんてことはありません。
しかし、このテストは挑戦者にとっては精神的にかなり厳しいようで、皆自分のサービスが終わるとぐったり、精根尽き果てた状態のようです。

準備中も緊張でナーバスになったりテンパリまくる挑戦者を、ミシェルとグレッグが励ますのですが、このへんまでくるとこのジャッジ2人もすっかり挑戦者の身内。情が移っているのが伝わってきます(笑)。

この評論家テストで、各組4名は準々決勝に進出する2名に絞られます。

ここまでの過程を、各グループ4夜連続、一週間で放送します。4組すべて放送し、準々決勝進出者8名が出揃い顔を合わせるのが5週目。
1週目のグループからの進出者については、5週目にはすっかり懐かしい顔になってしまっていますが、4夜連続で見届けた記憶があるので、なんとなく「おお、また会えたね!」的な心情を視聴者に抱かせます(笑)。
また、5週目頃には視聴者もそれぞれ自分のお気に入り挑戦者が固まってくるようで、回を重ねる毎に Facebook や Twitter での応援合戦も盛り上がりを増してきます。

5週目の初日の準々決勝、フリースタイルクッキングで、まず2人が脱落。

残った6人は2人ずつ3組に分かれ、それぞれのペアがイギリス国内の名門レストランに修行に入ります。これが準決勝。
ここでミシュラン星付きレストランの厳しさを知るわけです。
スタジオでは調子よく料理していた挑戦者も、いざ厨房に入ったりするとダメ出し連発だったり、逆にここで光る人もいる。
営業時間のサービスに参加した後は、お店の代表的メニューをレシピに沿って再現し、シェフの評価を受けます。

その後、各ペアスタジオで一騎打ちの審査。レストラン研修の成果が試されるというところでしょうか。
ミシェルとグレッグが食べて評価・コメントし、結果各ペア一人ずつが勝ち残り、決勝進出3名が決まったところで5週目終了。

ここでもう一つ、毎度疑問に思うのは、準決勝のペア組はどうやって決まっているのか?ということ。
ここまでの経過を見ていて、明らかに抜きん出て実力がありそうな2人が同じ組に入れられたり(つまりどちらかが脱落する)、一方でそうでもないような2人が組んだ故に一人が勝ち残ったりと、どこかフェアじゃなくね?とすっきりしない後味が残ることもないとは言えません。
ペアは純粋にクジ引きか何かで決めていて、運も実力のうち、ということなのか。
はたまた、番組的に決勝に残したいメンツが決まっていて、出来レースなのか...。
また、前半のレストラン修行の評価がいったいいかほどまで選考に影響しているのか不明。
結局は後半のスタジオでの調理一発で決まっているんじゃないのか?とも思える。

その辺探り出したら楽しく視聴できなくなりそうなので、あえてしません。


最終週の6週目。1日目、決勝進出の3名は、まずフリースタイルで2コース作り、例によってミシェルとグレッグが評価。
ここまでくると、料理は予選ラウンドとは比にならないハイレベル。

数週前にはさほどパッとしなくて、上記のように「なんでこの人残っちゃう?」と思わせてしまうような挑戦者も、やはりここまで勝ち残るには素人にはわからない何かを持ち合わせているのか。さすがと思わせる逸品を出してくる。確かに、番組を通して挑戦者のスキルや自信が高まっているのが見て取れます。

最終週は途中で誰も脱落せず、2日目は、3人揃ってまたミシュランレストランの厨房に入ります。
前の週にペアで行くレストランとはまた格が違う、今回はいわゆる最高峰の3つ星クラスのレストランです。

まずは厨房でその店独特の技術やこだわりの品を教わり、学んだ事を生かして自分なりの2皿を用意して、その店のシェフの評価を受けます。
さらにお店の営業時間に厨房に入り2皿の準備を担当し、超一流の技術やサービスを体験するという運びです。

素人ながら、こういう一流の現場に入り、サービスに参加するって、料理人としてはすごい経験なんじゃないかと思います。
例えるなら、冠婚葬祭でピアノの演奏をしている地方のピアニストが、ウィーンフィルと共演みたいな感じでしょうか...。音楽関係疎いのでとんちんかんな例えでないといいですが。

そして3日目はシェフズ・テーブル。
ファイナリストは、ヨーロッパ中から集結した、一流料理人30人(うちほとんどがミシュラン2−3星付レストランから)のために料理します。
前菜、メイン、デザートを、それぞれ1人が担当。6時間かけて準備します。

厨房で準備する挑戦者の様子を、ミシェルが見て周るのですが、その様子はもう家族同然。
うまくいけば一緒に喜ぶし、雲行きが怪しい時は一緒に手に汗握っています。

集まった一流シェフたちは、審査員というよりオーディエンス、お客としてサービスを楽しんでいるようです。
しかし、これ挑戦者たちにとっては、Massive Day だろうな...。うまくやれば仕事のオファーがあるかもしれない一方、失敗したら業界で生きて行けなくなりかねない。



そして、最終日スタジオでの3コースサービスが、決勝戦の最後の最後。優勝者が決まります。


さて、長々書いてきましたが、ここまでお付き合いいただいた後に申し上げるのもなんですが、この番組の醍醐味はぜひ映像でお楽しみください(笑)。YouTubeで Masterchef professional UK 2011 とでも入れていただき、ヒットGo。




2011年の決勝では、ファイナリストはスペインのミシュラン3つ星レストラン、El Celler de Can Roca へ行きました。
その映像を何度も見返し、我々思わず予約を入れてしまいました。

次回はその訪問の様子をお伝えします。


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